中津城
Nakatsu Castle
概要
城について
中津城は大分県中津市に位置する平城で、中津川と周防灘(瀬戸内海)の海水を利用した「水城(みずじろ)」として築かれた名城である。天正16年(1588年)、豊臣秀吉の最高の軍師として「今孔明」とも称された黒田孝高(官兵衛如水)が着工し、子・長政の代に完成した。日本三大水城(高松城・今治城・中津城)のひとつに数えられ、周防灘からの海水が城の濠に直接引き込まれた海城の構造は、海上からの防衛と水軍の活用を意図した官兵衛らしい合理的な設計である。現在の天守は昭和39年(1964年)に建設された鉄筋コンクリート製の模擬天守で、内部は中津城資料館として黒田・細川・奥平各家の歴史を展示している。
黒田官兵衛・孝高の生涯
黒田孝高(1546〜1604年)は播磨の戦国武将の家に生まれ、羽柴秀吉の参謀として数々の奇策で天下統一を後押しした戦国時代最高の軍師である。荒木村重の謀反に際して説得の使者として赴き、摂津有岡城に1年以上幽閉されるという過酷な経験を経ながらも秀吉への忠義を貫いた。中国大返し・山崎合戦・賤ヶ岳合戦・小田原攻めなど秀吉の主要な戦役すべてに参画し、その軍略は後世の軍事思想家に多大な影響を与えた。関ヶ原合戦では九州に残り、空白地帯となった九州で電撃的な攻略戦を展開して多くの城を落としたが、家康が早期に関ヶ原を制したためその功績は過小評価された。
福沢諭吉の故郷
中津は黒田官兵衛ゆかりの城下町であるとともに、日本の近代化に多大な貢献をした思想家・福沢諭吉の生誕地として全国に知られている。諭吉は中津藩下級武士の家に生まれ、適塾(大坂)・長崎でオランダ語・英語を学んだ後、慶應義塾を創設した。「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」という言葉で始まる「学問のすゝめ」は日本近代思想の金字塔であり、諭吉の故郷・中津を訪れる観光客の多くが福沢旧宅・福沢記念館を目的地とする。一万円札の顔として親しまれる福沢諭吉と黒田官兵衛という二大人物が共存する中津の歴史的厚みは特筆に値する。
細川家・奥平家と中津藩
黒田家が福岡藩に移封された後、中津には細川家(忠興・ガラシャで有名な家)が入り、細川忠興の治世に中津城の整備が進んだ。その後、関ヶ原合戦での功績を認められた奥平家が中津藩10万石の藩主となり、幕末まで統治した。奥平家は徳川家康の孫・亀姫の血筋を引く譜代大名で、幕府との深い縁故を持ちながら中津の産業・文化の振興に努めた。
中津の食文化と観光
中津は現在では「から揚げの聖地」として全国的に有名であり、中津のから揚げは醤油ベースの下味と独特の揚げ方で、全国から食べ歩きファンが訪れる。城跡観光とから揚げグルメの組み合わせは「中津スタイル」として定着しており、歴史と食の両面から楽しめる観光地となっている。耶馬渓(やばけい)の奇岩・紅葉の絶景も中津の代表的な観光資源であり、城・食・自然の三拍子揃った観光地である。
刀剣との関わり
中津城と刀剣の関わりは、黒田官兵衛・長政父子の刀剣文化と、細川家という日本刀史上最も重要な大名家との連鎖から語ることができる。黒田孝高(官兵衛)は軍師・謀略家として知られるが、剣の腕も一流であった。官兵衛が所持した刀として最も有名なのは「圧切長谷部(へしきりはせべ)」で、現在は国宝に指定されている。圧切長谷部は南北朝時代の刀工・長谷部国重の傑作で、刀長二尺二寸の脇差(または短刀に近い寸法の刀)に類する寸法の刀である。信長が茶坊主を膳棚の下に隠れたまま「圧し切り」にした(押し切った)という逸話からこの名がつき、後に黒田家に伝来した。圧切長谷部は現在も黒田家の宝刀として福岡市博物館に所蔵されており、日本刀の国宝の中でも特に知名度の高い一振りである。細川忠興は中津城に入った大名であり、茶人・細川三斎として利休七哲の一人に数えられる。忠興は刀剣の目利きとしても名高く、細川家に伝来する刀剣コレクションは現在も熊本・永青文庫に収蔵される優品揃いである。特に細川家伝来の「歌仙兼定(かせんかねさだ)」は、忠興が連歌会で36人の歌仙を手打ちにしたという伝説から名がつき、その凄まじい逸話ともあわせて刀剣ファンの間で絶大な知名度を誇る。奥平家が藩主となった後も、中津藩では剣術・弓術・槍術の武芸が奨励された。奥平家は徳川将軍家と近縁であったため、将軍家から拝領した刀剣が複数確認されており、中津城天守内の展示でその一端を見ることができる。中津という地は黒田官兵衛・細川忠興・奥平家という、日本刀史上の重要人物が次々と城主を務めた刀剣文化の宝庫であり、圧切長谷部・歌仙兼定という二振りの伝説的名刀を通して日本刀史の核心に触れることができる希有な場所である。
見どころ
- 中津城天守(模擬天守) — 黒田・細川・奥平各家の歴史と刀剣・甲冑を展示する資料館
- 圧切長谷部ゆかりの地 — 国宝刀の原点・黒田官兵衛の城。福岡市博物館への訪問とセットで
- 福沢諭吉旧宅・記念館 — 一万円札の顔・諭吉の生涯と近代化への貢献を学ぶ聖地
- 耶馬渓の奇岩と紅葉 — 中津から車で約30分。日本有数の奇岩景観と秋の紅葉の名所
- 中津から揚げ — 日本一の聖地。醤油ベースの濃い下味と独特の揚げ方は全国に名が轟く
- 羅漢寺 — 耶馬渓の断崖に穿たれた岩窟寺院。3700体の羅漢像が並ぶ壮観な霊場
※開館時間・入場料は変更される場合があります。訪問前に公式サイトをご確認ください。
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