忍城
Oshi Castle
概要
城について
忍城は埼玉県行田市に位置する城郭で、忍川・元荒川・星川が複雑に絡み合う湿地帯(低湿地・沼沢地)に築かれた典型的な「水城(みずじろ)」である。文明10年(1478年)頃に成田氏が築き、低湿地の自然を巧みに利用した防御体制を誇った。豊臣秀吉の小田原攻めに連動した関東諸城の攻略戦において、石田三成が大軍を率いて忍城を水攻めにしたにもかかわらず城を落とせなかったという「忍城の水攻め」の故事で有名であり、「のぼうの城」の舞台として現代でも広く知られている。現在の三層の模擬天守は昭和63年(1988年)に建設されたもので、内部は行田市郷土博物館として成田氏・忍藩の歴史を展示している。
石田三成の水攻めと「のぼうの城」
天正18年(1590年)、豊臣秀吉の小田原攻めに際して、石田三成は約2万の軍勢で忍城を包囲した。三成は城の周囲に全長28キロメートルにも及ぶ堤防(石田堤)を築き、降雨期に利根川・荒川の水を引き込んで忍城を水没させようとした。しかし、成田氏の家老・甲斐姫(なりよし)と城代・正木丹波守などが率いる約500人の籠城軍は、大軍の水攻めに屈することなく3ヶ月以上にわたって抵抗を続けた。小田原城が降伏した後もなお忍城は開城せず、最終的には主君・成田氏長が小田原で降伏したことを受けて自発的に開城したが、最後まで力攻めでは落城しなかった。この「忍城の水攻め」は石田三成の計略が失敗した歴史的事件として有名であり、平成24年(2012年)の映画「のぼうの城」(監督:犬童一心・樋口真嗣、主演:野村萬斎)によって広く知られることとなった。
甲斐姫の伝説
忍城の籠城戦で最も伝説的な存在が「甲斐姫(かいひめ)」である。成田氏長の娘・甲斐姫は武芸に優れた女性武将として知られ、籠城中に自ら槍を手にして城を守ったという伝説が残る。甲斐姫の美貌と武勇は石田三成方にも知られ、落城後には豊臣秀吉の側室として大坂城に召し出されたという伝承もある。現代では女性武将の象徴として人気が高く、行田市では甲斐姫をテーマにした観光振興が行われている。
忍藩と江戸時代
江戸時代には忍藩10万石の城として阿部家・忍家が入り、のちに老中・松平忠国が藩主となるなど幕府重臣ゆかりの城となった。江戸時代の忍城は関東における水城の典型として知られ、城の周囲の水濠と自然の沼沢地が美しい城景観を作り出していた。行田市は現代では「ゼリーフライ」という独特のB級グルメでも知られており、城下町散策の楽しみが増している。
行田の歴史的特質
行田市は忍城のほかにも、日本最大級の埼玉古墳群(さきたまこふん群、5世紀〜7世紀の前方後円墳)を持つ歴史都市である。さきたま古代蓮の里では古代蓮の花が咲き(7月〜8月)、古代の景観を今に伝えている。足袋(たび)産業の発祥地としても知られ、行田の足袋蔵(たびぐら)と呼ばれる煉瓦蔵の街並みが国の重要文化的景観に選定されている。
刀剣との関わり
忍城と刀剣の関わりは、「水攻め」という特殊な籠城戦における白兵戦の実態と、成田氏・甲斐姫という人物の剣武に関するエピソードから語ることができる。成田氏は上杉謙信・北条氏の支配下で働いた関東の武士団であり、戦国時代の関東の刀剣文化の一翼を担っていた。成田氏の武士たちが帯びた刀は、関東・上州の刀工が手掛けた実用的な刀が中心であったと考えられる。関東の刀工文化は備前・大和・山城ほど著名ではないが、「武蔵刀(むさしがたな)」と呼ばれる関東の刀工の作品は実戦での堅牢さで定評があった。石田三成の水攻めに対して忍城の籠城軍が行った防衛戦では、水上での戦闘が多く行われたと考えられ、沼沢地での白兵戦には小回りの利く短刀・脇差が有効であったと推測される。甲斐姫が槍を手にして戦ったという伝説は、戦国時代における女性の武芸習得の実態を示す貴重な記録であり、武芸十八般の中で特に弓・槍とともに刀(もしくは薙刀)を修めた女性武将の存在を裏付ける。江戸時代に忍藩主を務めた老中・阿部豊後守忠秋は、将軍家光・家綱に仕えた名老中として知られ、その治世に忍藩の武芸文化が整備された。阿部家は将軍家と近い関係にあったため、将軍家から拝領した刀・太刀が忍城に伝わった可能性があり、忍城関連の刀剣文化の深みを示している。行田市郷土博物館(忍城天守内)には成田氏・阿部氏ゆかりの甲冑・刀装具が展示されており、「のぼうの城」ファンが甲斐姫・成田長親の史実の武器に触れることができる場となっている。埼玉古墳群で出土した古代の刀子(とうす)・鉄剣の展示もあり、古代から戦国・江戸時代まで一貫した行田の「刃物文化」の歴史を一望できる。
見どころ
- 模擬天守と行田市郷土博物館 — 成田氏・阿部氏の甲冑・刀剣・資料を展示。「のぼうの城」の史実を学べる
- 石田堤 — 石田三成が築いた全長28kmの堤防の遺構。水攻めの規模の大きさに圧倒される
- 甲斐姫ゆかりの史跡 — 女性武将・甲斐姫の伝説を追う城下町散策
- さきたま古墳群 — 5〜7世紀の前方後円墳が集中する日本有数の古墳地帯。国の特別史跡
- 古代蓮の里 — 約1400年前の古代蓮の種から育った蓮の花が咲く幻想的な景観(7〜8月)
- 行田のゼリーフライ・フライ — おからベースのB級グルメと「フライ」(お好み焼きの一種)は行田名物
※開館時間・入場料は変更される場合があります。訪問前に公式サイトをご確認ください。